原爆、その後の人々―

命のともしびは、最後の力を振り絞って燃えている。

19458月、アメリカによって日本に、ふたつの原子爆弾が投下されました。ひとつは広島に、ひとつは長崎に―あのきのこ雲の下にいた人たちがどのように命を奪われ、どのように傷つけられたのか、悲劇の実相は、今日まで多くの人々によって語り継がれてきました。あれから長い年月が経ち、原爆を生き延びた人々は、今、人生の最終章を迎えています。原爆の後にも、彼らには長い長い人生がありました。ある人は、家族をすべて失って天涯孤独となり、生活の糧を得るために必死で働きました。ある人は身体の自由を奪われ、人を愛し、愛されることを諦めました。ある人は悲惨な光景のトラウマに苦しみながら、辛い記憶とともに戦後を生きていました。晩年を迎えた彼らの命のともしびは、今、最後の力を振り絞って燃えています。長い時を乗り越えて、彼らは私たちに何を語りかけるのか。生き延びた人々の存在、そして、生きることができなかった人々の不在に迫るドキュメンタリーです。

 

日本人だけではない原爆の犠牲者。

韓国、オランダ、日本―カメラは海を超えた。

原爆の犠牲者は、広島・長崎あわせて、およそ21万人にのぼります。そのうち約4万人が、当時、日本が植民統治していた朝鮮半島からの労働者、あるいは、移住者でした。また、長崎市の爆心地付近には、太平洋戦争によって日本軍に捕えられた連合国軍兵士の捕虜収容所があり、イギリス人、オランダ人、オーストラリア人など195名が被爆、うち7名が命を落としました。彼らの存在は、原爆の悲劇だけではなく、当時の世界情勢や、戦時下における日本の立場を生々しく伝えてくれます。祖国から遠く離れた地で、彼らはあの日、何を見たのか、そして、原爆後の人生をどんな思いで生きてきたのか。一般的に知られる原爆の史実からこぼれ落ちていった、彼らの魂の叫びが、国境を超えて観る者の心を揺さぶります。

本作の監督は1975年生まれの東志津。前作「花の夢—ある中国残留婦人—」(‘07)では、日本の敗戦により中国東北部(旧満州)に置き去りにされた日本人女性の半生を描きました。2009年に文化庁新進芸術家海外研修制度にて渡仏し、滞在先のパリでは第二次世界大戦時のヨーロッパにおけるユダヤ人迫害の歴史を目の当たりにします。差別と戦争、そして、そこから生みだされる大量殺戮<ホロコースト>の歴史が、日本に投下された原爆の悲劇と重なり合い、それが本作を作るきっかけとなりました。まるで虫を蹴散らすように原爆は人の命を奪いました。人間は人間に何をしたのか、そこから人間はどう立ち直ったのか―原爆に屈することなく、自分の人生を見事に生き抜いた人々、そして、“その瞬間”まで確かにそこにいた人々の、美しい人生の記憶を残しておきたい―そんな思いから本作は生まれました。